2011年11月

中村明日美子「同級生」シリーズ〜ピュアな恋〜

*この作品の紹介テキストはブログ移転の際に紛失してしまいました。
最初のテキストの時は「同級生」のみでしたが、その後「卒業生・冬・春」が出ましたので、シリーズとして今回改めて書き直しました。*


書店に行っていろんなコミックの表紙を眺めて回るのが好きだ。そして知らない作家さんでもこれはと思ったら直感で買ってみるのが好きだ。この作品も誰かに勧められたとかではないのだが、ずっと気になっていた。表紙を見て(なんとなく耽美?…ちょっと三白眼みたい…)絵の感じにやや抵抗は覚えたが、やっぱり気になったのでえいや!と買ってみた。読んだ。大当たりだった!
私の大好きなじれじれした恋、究極のピュアがそこにあった。
夕方ひとり残って小さく歌う九条を見た瞬間に草壁はすとんと恋に落ちた。細くてきれいな顎の清廉な横顔の九条に。
ここでの恋のライバルは音楽の教師であるハラセンこと原先生であった。入学式の日に電車で体調を壊した九条を迎えに駅まで行かされたのが最初の出会いである。ハラセンはきっちりくっきりゲイの人なのだが、九条の容貌とその素直な言動にこちらもすとんと恋に落ちる。大人だから卒業を待とうではないか、と鷹揚に構えていたら思わぬ伏兵に攫われた。だもんでシリーズを通して草壁とハラセンの恋の鞘当は時に激烈である。

「同級生」だけでも何度も繰り返し読んでいるのだが、その後日談が「卒業生・冬」「卒業生・春」と同時に出た時は本当にどきどきしながら読んだ。受験を控えて大事な時期に母親に腫瘍が見つかり、単身赴任の父に代わり病院の母の世話もやらねばならなくなった九条は淡々とそれをこなす。その恋人の力になりたいのに、何も出来ず見守ることしかできない草壁のもどかしさ。誰しもが味わったことのある無力感なのではなかろうか。恋人に家族に友人に、力になりたいのに何も出来ない自分を振り返り、もどかしさと苛立ちを味わい、何か気遣っても相手の負担にしかならないのではというやりきれない思いを。
草壁はしかし自分の出来ることを探し、非力ながらも最後にはしっかり心理的に彼を支えるのである。見栄っ張りで人前で泣くことなどない九条が草壁の肩にこぼす涙の暖かさが草壁に誇らしさを与える。大きな事件が起きるわけではない、学校生活の中で合間を見ては二人の時間を過ごし、人目を憚りながらも少し大胆なキスを交わす。
一気に次のステップにはいけない二人が、まったく違う進路の分かれ道に向かいながら、この先も一緒にいようと約束を交わすに至るまでが、ともかく細やかに細やかに描かれているのである。この流れの自然なこと。描線も柔らかく流れるようだが、物語も無理なく優しく流れて心地よい。
会話のテンポを味わい、丸みがある細く流麗な線を味わい、シリーズ全部を何度も何度も味わう人も多いだろう。
気が遠くなるような長い年月が二人には待っている。でもきっとどうにか乗り越えてくれるんじゃないのかな、とどこか遠くに実在する二人をすでに気持ちは応援している。
きっときっと幸福でいてね、と。

ここに究極のピュアな恋があります。
posted by 天野章生 at 23:04 | the 6th sentiment